それでも生きるのが人間 井上靖『おろしや国酔夢譚』
<だれでも一度は思う、「ロシア広すぎワロタw」>
子供のころ、世界地図を眺めていて、ロシアという国の異質さに度肝を抜かれたことがある。
ユーラシア大陸の北側をのっぺりと埋め尽くすように広がる国土。
住める場所も限られているような厳寒の地に根を張り、歴史を塗り重ねてきたロシという国に、幼いながらも妙に引き付けられたのを覚えている。
「世界中のどの国とも性質の異なる、得体のしれない奥深さを持った大国」
というのが、自分のロシアという国に対する第一印象であった。
<ちなみに、「おろしや国・酔夢譚(すいむたん)」と読みます>
それから多少なりともロシアの歴史を学んでいくにしたがって、ただただ得体のしれない印象だった国から、色彩豊かな歴史の重みをもつ一大国、という風自分の中での位置づけも変わっていくのであるが、井上靖の『おろしや国酔夢譚』という物語も、そうした色彩により深みを持たせる一つのきっかけになったと思う。
なにより、歴史の教科書で名前だけは覚えた、という程度の大黒屋光太夫という人物について、そして彼がたどった数奇な運命について詳しく学べたことがうれしかったし、それを歴史文献から小説としてここまで面白いものに仕立て上げる井上靖という作家の実力に改めて感嘆せざるを得なかった。
<人に生きようと思わせるものは何なのか>
カムチャッカに漂着してから、オホーツクを経由し、ヤクーツクからイルクーツクに至るまでの凄惨としか言いようのない移動。その中で次々と息絶えていく仲間たち。
過酷すぎる運命に翻弄されながら、それでも必死で生きようとする光太夫たちの姿には感動せざるをえないし、彼らに救いの手を差し伸べてくれるラックスマンをはじめとするロシア人たちの懐の深さにも感嘆させられる。
だが、やっぱり一番すごいと思うのは、光太夫たちを「初めから超絶強固な意志をもっていたマッチョな偉人達」として描くのではなく、「幾度も悩み苦しみながら、運命のいたずらによって異国の地で生きざるを得なかった普通の日本人たち」として描く井上靖の感性である。
死んだほうが幾分かマシだ、と思わせるような状況で、それでも人を生きさせるものはなんなのか。この物語は、そういう問題提起を含んでいると思う。少なくても私はそう思った。
最後、光太夫がやっと故国日本に帰ってきて抱く複雑な思いの中には、そもそも生きるということの中に含まれる一抹の悲しさとか、人間と「生きること」との葛藤みたいなものが真摯に描かれていると思う。
「プロ」の読書量について 宮本輝『魂がふるえるとき』
すっかり秋めいてきた。
肌を通り抜ける風も冷たく感じる。
風に吹かれて道を歩く、秋の夕暮れ。
風に吹かれて…
Blowin' the Wind...
ボブ・ディラン...
そう、ボブ・ディランだ!
こいつはなんというか、斜め後ろから一発食らった感じ。
村上さんは今年も受賞ならずということですか。
千駄ヶ谷のファンはさぞかし落胆していることでしょう。
「アメリカの歌の伝統に新たな詩的表現を生み出した」(NHKニュースより)というのが授賞理由らしい。
なんというか、文学賞にこういう切り口もあったということが新鮮な驚きというか、「文学=小説」というステレオタイプから、なんだかんだ言って脱却できない自分自身の視野の狭さに猛省した今日この頃である。
こんな誰でも知っているようなニュースを書くために、冒頭のような安易な連想ゲーム的駄文を綴ってしまった私をどうかお許しください。
<「ひとの本棚」を見る快感>
さて、今回紹介したいのは宮本輝編の短編集、『魂がふるえるとき』。
魂がふるえるとき―心に残る物語 日本文学秀作選 (文春文庫)
- 作者: 宮本輝
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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なんかこういう「まとめ」的作品集って、編集した人の本棚の一部を垣間見るようで得体のしれない快感がある。本棚の片隅には、大っぴらに人には言えないような、その人だけの隠れた思考(あるいは「嗜好」)が埋まっていたりするから。
今回も、宮本輝自身の小説には現れ出ない、彼の思考(嗜好)の端緒に触れたようで、宮本輝ファンの私としては大満足であった。
そして思い知った。
宮本輝という作家が、いったいどれだけの読書量を、どれだけの「質」をともなってこなしてきたかということを。
この本で紹介されている短編(いずれも、本好きなら誰でも知っているような大作家ばかりである)の中で、自分が知っているものは一つもなかった。そしてそのどれもが、独特の質感と世界観を持った印象深い作品であった。
いったいどれだけの読書量をこなせば、そしてどれだけ感度の高い読書感受性を持っていれば、数ある短編小説の中からこういった作品を選り抜くことができるのか。
なんともはや、そうか、これが「プロ」か。
読書量を人と競うなんてことはくだらないと分かってはいても、やはり自身の読書の「量」も「質」も、到底この人に及ばないことを痛感するのだ。
ましてや、そんな宮本輝が尊敬してやまないという作家たちの力量などは推して知るべしである。異次元の領域である。
人の魂を震わすことができるのは、こういう人たちなのだろう。
(…ちなみに短編16編の中での私のお気に入りは、尾崎一雄の「虫のいろいろ」です)
9月の文芸目録(2)~映画・ドラマ・アニメ編~
9月の文芸目録、映像作品編です。
今月は、dTVの無料お試し期間を使っていろいろとアニメやらドラマやらを貪ってました。
さすがに映画ともなると2時間以上拘束されるので、そう何作も見れませんでしたが。
「他人の趣味の足跡をじっくり眺めてる暇なんてないやい!」
という方は、遠慮なく踵を返していただくことをお勧めします。
それから、これはほんとに備忘録的に観てきたものを網羅してるだけなので、
「おい、てめーのブログで紹介してた○○って作品、観たけどくそつまんねーじゃねーか。おのれ、どうしてくれよう。ムムム。」
みたいなことになっても当方は責任を負いかねます。そこん所ご了承をお願いします。
では、どうぞ。
~ドラマ編~
SHERLOCK シャーロック
現代に生きるシャーロック・ホームズとワトソン君の推理ドラマ。舞台は当然ロンドンのベイカー街。シャーロックの俳優さん活舌良すぎ。シーズン4出るのかな。
SPEC
なぜか今更のように観てしまった。面白いな、これ。
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こびと観察入門
なんじゃ、こりゃ。
こびと観察入門 モモジリ クサマダラ モクモドキ編 [DVD]
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闇金ウシジマくんシリーズ
最初、興味本位で見たときは、胸くそ悪い作品だと思ったが・・・。
~映画編~
ハゲタカ
金融ビジネス系が好きな人は面白いと思う。
雲の向こう、約束の場所
新海作品の映像の美しさは、卑怯だと思う。(泣いてまうやろ)
~テレビアニメ編~
モブサイコ100
こういう、シュールな超能力系は大好き。
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七つの大罪
ひねくれもんだから、こういう超メジャーどころはあんま見ないんだけど、ハマった。
サムライ7
もちろんあの不朽の名作のオマージュ。キャラが立ってていいね。
ベルセルク
ストーリーは原作に基本忠実。3Dアニメなのはちょっと・・・。
9月の文芸目録(1)~読書編~
あー、9月が終わってしまう・・・。
8月中旬までは、いろいろとてんやわんやの毎日だったが
9月に入ってからは光陰矢の如く日々が過ぎて言った印象。
しかし、夏が最後の余力を振り絞ってますな。
なんというか、蝉が引き際を見失っているじゃないか。
台風もまだちょっかい出してくるし。
おかげでこっちは、衣替えを済ませてしまった後に、結局また半そでシャツを引っ張り出す始末。
夏の終わりは今いずこ。
さて、月末ということで、今月読んだ本やらマンガやら、観た映画やらドラマやらアニメやらを目録風にしました。
備忘録的につくったので、見やすさとかはあんまり考えてないです。
申し訳ない。
なんか興味のあるものがあったら読んだり観たりしてみて下さい。
それではどうぞ。
~読書編~
<今月読んだ本>
むのたけじ『希望は絶望のど真ん中に』
先日むのたけじさんがお亡くなりになったということで一冊拝読。むのさんの気骨に感服。
瀧本哲史『ミライの授業』
近所の書店の店頭にあって、面白そうだったので衝動買い。こんな人たちに少しでも近づけたら楽しいだろうな。
筒井康隆『文学部唯野教授』
大学の体質なんてそう変わらんものなのかな。こんな教授いたら面白いけど。
稲泉連『僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由』
とりあえず自分は働いてみよう。
青山繁晴『壊れた地球儀の直し方ーぼくらの出番』
ジャーナリストの凄絶さをひしひしと感じる。
土屋賢二『哲学者かく笑えり』
ナンセンス哲学(?)。表紙絵はいしいひさいち。
上原義広『日本の路地を旅する』
ここでの路地とは、いわゆる被差別部落のこと。
メアリー・マッカーシー『アメリカの鳥』
自意識と誠実さのジレンマ。
永岡書店編集部『世界の絶景パレット100』永岡書店、2014
そりゃ、行ってみたいにきまってるじゃないですか。
<読み途中>
図書館の返却期限を気にしつつ
ガルシア・マルケス『百年の孤独』
登場人物の名前ややこしすぎ。焼酎ではない。
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)
- 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,鼓直
- 出版社/メーカー: 新潮社
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鎌田慧『地方紙の研究』
未来に向けて。
稲垣足穂『一千一秒物語』
日常にいつのまにやら紛れ込むファンタジー。
常見陽平『僕たちはガンダムのジムである』
ムリしてガンダムにならなくてもいいじゃん、という話。
酒井英行『宮本輝論』
宮本輝が好きすぎて。
金時鐘編訳『尹東柱詩集 空と風と星と詩』岩波文庫、2012
戦時下の日本で不遇の死を遂げた韓国人詩人の詩集。
ミニマリストは捨てた本の夢を見るか? 佐々木典士『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』
ダメだ。
モノが多すぎる。
供給過多のこの時代、自身の器以上の物品を所持していても
文字通り手に余る だけである。
よし、かくなる上は断捨離だ。
空間デトックスだ。
手始めに、今までどっかと腰を据えていた、やけに嵩張るこの書籍たちから
処分じゃい!
と意気込んで、ミニマリストになる決意をしたのが約半年前。
きっかけはこの本である。
ぼくたちに、もうモノは必要ない。 - 断捨離からミニマリストへ -
- 作者: 佐々木典士
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2015/06/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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そして、本棚の中でほこりをかぶって少々やさぐれ気味だった 本たちを泣く泣く処分して、次いでに本棚も一つ亡き者にした。
その後も少しずつ物を減らし続けていった。
結果はどうであったか。
個人的な意見から言えば、得したことのほうが多い。
部屋がすっきりして見栄えが良くなった。
掃除しやすくなった。
「片づけられない自分」に自己嫌悪することが少なくなった。
などなど。
ただ、その一方で「やっぱり人はそう簡単には物欲を手放せない」
ということも痛感した。
個人的には、こう殺風景な空間の中心にちっちゃい机がぽつんとあるだけ、
みたいな禅的な空間にすることを夢見ていたのだが、なんか程遠い。
いつのまにか今までなかったはずのものが鎮座ましましているし、
なんか結局本棚は元の数になってるし(やっぱり本だけは許してください)。
究極のミニマリストに俺はなる!みたいなことを思ってた頃が懐かしいですわ、
ほんとに。
あー、今日も新しい本を買ってしまった。
愛すべき自意識過剰 メアリー・マッカーシー『アメリカの鳥』
あー、やっと読み終わった。
メアリー・マッカーシーの『アメリカの鳥』。
池澤夏樹の世界文学全集でもいっちょ制覇したるか、と思い立ったのが9月の頭。
そして、その手始めにと読み始めたこの本を読み終わったのが昨日。
池澤さんの文学全集は30巻ある。
・・・先が遠い。
ていうか最近は、中学・高校のころのように一日中一つの本にかじりついているということができなくなってきた。最低でも二時間に一回は休憩入れないと、急速に本に飽きてくる。
「読書力」というものも、着実に下降線を描いておりますな。
・・・まあ、なるようになるさ。
閑話休題。
世の中には、どうしようもなく自意識過剰な奴が存在する。(自分である)
そいつは、傍から見ればどうでもいいようなことを深刻に悩み、自身の肥大化したエゴを手なずけられずに日々悶々としている。(自分である)
例えば、だれも気にしていないのに寝グセが治らないことにイライラしている、だれも気にしていないのに自分がラインのグループに入ることなどおこがましいと思っている、だれも気にしていないのに飲食店で相手と同じメニューを頼むのは芸がないと思っている、などは自意識過剰の初期症状である。(十中八九、自分である)
とまあ、こんなどう考えてもめんどくさいやつが世間には実在するわけであるが、『アメリカの鳥』の主人公ピーターも、相当自意識過剰な奴である。
どれくらいかっていうと、全430ページすべて彼の自意識で埋まっているくらい。
彼は、自分なりの価値観をもって外の世界に切り込んでいく。
彼の武器は、カント哲学の普遍的道徳、いわゆる「定言命法」によって示される倫理観である。
「あなたの意志の格率が、常に同時に普遍的な原理として妥当しうるように行動せよ」
というのが定言命法の骨子であるが、つまりは世の中の人すべてが、条件抜きで正しいと思えるような絶対的な道徳があるんだよ、ということである。
そして、作中の主人公ピーターの行動はすべて、彼の自意識が判断した「普遍的道徳」に則った行動である。
だが、全人類に当てはまる絶対的道徳などというものは、果たしてあるのだろうか。
これに関する議論をここでするつもりはないし、あらゆる天才的な哲学者や思想家たちが、カント以来死ぬほど議論してきたにも関わらず答えが出ていないのだから自分に分かるわけがない。
だけども、『アメリカの鳥』の主人公ピーターの気持ちは少しぐらいなら分かる。
武器は、古びた(と周りは言う)カント哲学。防具はなし。
ダメージは否応なく蓄積されていく。
母親と自然をこよなく愛する誠実な若者は、その誠実さゆえに自分を苦しめていく。
絶対の道徳を追い求めて、それを鼻で笑う大人たちを鼻で笑って、肥大化する自意識を持て余して、結局何もできない自分に自己嫌悪したりして・・・。
これって、戦後の中流以上のインテリ層の若者特有の、甘ったれた理想観なのだろうか。
そういう気もするし、そうじゃない気もする。
でも、やっぱりなんとなく憎めないんだよなあ。
支離滅裂な文章でごめんなさい。(自己嫌悪)←自意識過剰?
「ド田舎」の可能性についてどう思いますか?
いつの間に
蝉から鈴虫に
変わったの
(字余り乙)
・・・季語って二つ入れていいんだっけ?
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先日友人に勧められたので、Kindle Unlimitedを
試してみた。
ところで、
「読み放題」は、「~放題」というカテゴリーの中でも
群を抜いてコストパフォーマンスに優れている。
「食べ放題」「飲み放題」「詰め込み放題」などは、
一見非常にお得そうに思えるが、実際は物理的限界にすぐぶち当たる。
しかも後で必ずと言っていいほど後悔する。(主にトイレの中で)
だが、読み放題はどうだろう。
まず、胃袋インの「食べ放題」「飲み放題」などと比べて
圧倒的に物理的許容量が大きい。
眠気と空腹にさえ勝つことができれば、いくらでも読み耽ることができる。
なおかつ、後悔することが非常に少ない。
圧倒的クソ駄作にでも出会わなければ、時間の無駄だったと思うことは
皆無に等しい。(駄作は駄作で好きだし)
「じゃあ、映画とかアニメの見放題はどうなのさ」
というご質問をされるかもしれない。(しないか)
だが、映画やアニメはあらかじめ時間の尺が決められてしまっていて、
25分なり120分なりはお行儀よくパソコンの前に座っていなければならない。
その点、本やマンガならば自分のペースで読むことができる。
とまあ、読み放題はかくも素晴らしいものだったということに
気づいた今日この頃でした。
(あくまで個人の感想です)
・・・本題。
例の読み放題の中に面白そうなマンガがあったので読んでみた。
舞台は、伊豆の山奥のさびれた温泉宿。
高齢化率は50%以上。
いわゆる限界集落というやつです。
登場人物は、
仕事に疲れ切った元バリバリのゲーム業界人。
死に場所を求めてやってきたネットアイドル。
それを追っかけてやってきたオタクたち。
そして温泉宿の主人と息子。
・・・面白くないわけがないじゃないですか。
物語の主題は、借金抱えて潰れる寸前の宿を、みんなの力で
どう再生させていくか、というもの。
時が止まってしまった限界集落を、都会では落ちこぼれとしか
いえない若者たちがアイデアと熱意で激変させていくその過程が
面白いのはもちろん、サブカルに染まり切った登場人物たちの
コミュニケーションや価値観の衝突の描写がとても秀逸。
なんか読んでてワクワクした。
世の中捨てたもんじゃないぜ、って。
都会だって田舎だってまだまだやれるぜ、って。
しかし、
今までの読書スタイルだったらたぶん出会ってなかったなあ、この本。
まったく、Kindle様様だよね。